(最終回)問題棚上げの「日韓友好」あり得ない

【奪われた竹島】(最終回)問題棚上げの「日韓友好」あり得ない

亀戸惣太2009/02/01  

振り返ってみると、1952年の「李承晩ライン」が竹島紛争の発端だった。それを軽視し、後には棚上げしたあげく問題をこじらせた日本外務省の無能と怠慢は大いに責められるべきだ。今後は外務官僚を排除した両国合同の委員会で知恵を出し合ったらどうだろう。同じテーブルに着く条件は熟しているように見える。

1905年以来の一貫した日本領土


 今年も島根県の「竹島の日」が近づく。1905(明治38)年2月22日に竹島を編入して100周年となるのを記念して2005年に島根県が定めた日だ。今年は、式典に続いて山谷えり子参議院議員(「日本の領土を守るため行動する議員連盟」会長)や伊藤博敏Web竹島問題研究所研究スタッフらの記念講演が行われる。

 島根県が「竹島の日」を制定したのは「竹島問題についての日本国民の啓発」が目的とされた。実際には、無法極まる「李承晩ライン」が設定されて以来、これを放置してきた政府に対するアピールの意味も含む。また、1999年の新日韓漁業協定で発足した暫定水域でベニタラバガニの乱獲が著しい韓国漁船を牽制したい趣旨も見え隠れする。

 「竹島の日」制定という島根県の「独走」は、韓国から猛反発を招き、日本の各都道府県と韓国の姉妹都市交流が途絶えるなどマイナスの波紋を広げた。期待した政府の支援もなかった。しかし、この決断が国内では忘れられかけていた竹島問題を再び注目させることになったのは間違いない。

 外務省は竹島が17世紀初めから日本の領土だったと主張するが、正しいとは言えない。よく「日比谷公園程度」と形容される広さしかない竹島は無人島で、日韓の漁民が互いに入り会って利用してきた。航海技術や測量技術が発達して「領土」概念が確立した20世紀初めまで竹島の帰属は未決定だった、というのが客観的事実である。

 日本では1900年前後まで「竹島」と「松島」が混同され続け、韓国では「独島」と明らかに比定できる島を示す歴史資料がまったく存在しないことも、それを裏付ける。国家が「帰属」や「領有」を意識するには、竹島はちっぽけすぎた。だからこそ1905年の島根県編入、1951年のサンフランシスコ平和条約における連合国の決定といった公的書類には法的根拠がある。


無人の小岩礁が持つ「領有」の意味とは


 「竹島を領有する」ということの今日的な意義は何だろうか。竹島問題は漁業と切り離して語れない。

 改めて紛争の発端を振り返ると、意外に新しく、1952年の「李承晩ライン」からだ。韓国大統領・李承晩が、近代国家の一員という認識を欠いたまま一方的に日本海に線引きをした「領海」線である。敵対国の日本へはもちろんだが、韓国の事実上の「宗主国」だった米国への相談さえなかった。李ライン内での日本漁船の拿捕が相次ぎ、日本海は一転して「危険な海域」と化した。日本側はこれを韓国の「海賊行為」と呼んだ。

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1999年に竹島を取り込む形で設定された「暫定水域」。日韓漁船同士のトラブルが多発し、竹島「未解決」の象徴とさえなっている=水産庁サイトから

 1999年、日本海での排他的経済水域(EEZ)を定める新日韓漁業協定が結ばれたが、竹島問題は再び棚上げされた。鬱陵島と隠岐諸島の間に、竹島を取り込む形で日韓が相乗りで操業できる「暫定水域」が設定された。現実には、この水域内では「旗国主義」も手伝って、日韓の漁船同士のトラブルが相次いだ。もし竹島が明確な日本領土とされていればEEZはここまで膨らみ、暫定水域などという奇妙な存在はなかったはずだ。

 新協定以前に日本のベニズワイガニ漁の主漁場だった水域も、この暫定水域に含まれた。農水省の資料によれば、暫定水域設定以前の98年に島根県のベニズワイガニの漁獲高は6,207tだった。設定後の05年には4,271tまで落ち込んでいる。島根県の漁業組合は「かつて、この水域でのベニズワイガニの水揚げ量は全体の9割を占めた。今では3割にも満たない。韓国漁船には実質的に操業規制がなく、その影響で資源が減っていることも大きい」としている(島根県HP)。日本の漁業関係者はトラブルを嫌って暫定水域から撤退の傾向にある。

 漁業問題以上に重要なのは、竹島で日本の国家主権が侵されている事実である。たしかに竹島は人が住むに適した島ではなく、保有しても利用価値は乏しい。だが、自国領土すら守れない国が「国家」を名乗れるだろうか。竹島で韓国との間にきちんとした決着をつけられなければ、将来、たとえば日本近海でエネルギー資源が新たに見つかった際に、第2、第3の「竹島問題」を招く可能性もある。

 1965年の日韓基本条約でも「負の遺産」である李ラインの後始末はうやむやだった。現在の日本政府の事なかれ主義的な態度はこの時代と変わりがない。前回触れた「竹島密約」の真偽は置いても、日韓両国の政治家が問題解決に向けた具体的方策を残せなかった「失敗条約」であることは歴史的事実だ。


問題を解決できない外務官僚の無能と傲慢


 ここまで問題をこじらせた原因である外務省の外交上の無能と怠慢を指摘して、しすぎることはない。外務省は毎年末、韓国に対し「竹島の実効支配に抗議する」旨の口上書を送っているという。日本側は送りっぱなし、韓国からは単なる「年中行事」として無視され続けたままだ。国民に向け「外務省は何もやってないわけではありません」という口実づくり以外の何物でもない。

 竹島問題に関する日本政府の所管は外務省北東アジア課だ。現在、問題解決に向けた政府としての専門機関は存在せず、外務省、農水省などの各省庁がバラバラに取り組んでいる。島根県の「竹島の日」騒動に見るように、地元を孤立させこそすれ、政府には後押しする動きはない。竹島問題での外務省の「活動実績」としては、せいぜいパンフレットを作成して数ヶ国語に翻訳したに過ぎない。

 JANJAN編集部では昨年末、外務省に竹島問題での取材を申し込み、要求に従って北東アジア課に質問事項を送った。1877年の太政官指令(連載第4回)に対する政府見解、自衛権発動の可否(連載第7回)、韓国による竹島の「実効支配」は領土侵害か(連載第7回)など詳細な8項目に及ぶ。

 ところが、1月9日にファクスで送られてきた外務省の返事は、外務省の公式サイトと衆議院の「質問主意書」、国会の「国会答弁」のウェブサイトを示してきただけだった。編集部が求めた北東アジア課長へのインタビューも含め、いっさいの取材拒否である。国民にこの問題で理解を求めたいとは露ほども考えていない。むしろ「民間人は余計なことに触れるな」と言わんばかりの内容だった。

 この回答にはまた、編集部が聞いてもいない、次のような文言もある。

 「外務省としましては、問題の平和的解決を図る上で、有効な方策を不断に検討してきているところであり、今後とも粘り強い外交努力を行っていく方針です。」

 「粘り強い外交努力」という表現は、外務官僚が竹島問題に関して必ず使う言葉である。政府に質問主意書を連発している鈴木宗男衆議院議員への答弁書にもこの文言がよく表れる。無意味・無内容の常套句を繰り返すしかない外務省の無為無策とその反動としての開き直った傲慢なぶりが、この8文字に集約されているといっても言い過ぎではない。


問題棚上げのままの「友好」はあり得ない


 韓国国民の竹島を自国領だと疑わない「独島信仰」も、今後の課題だ。韓国では初等学校教育で「竹島は自国領」と刷り込んでいる。最近では、日本の学習指導要領に竹島が含まれると報道されただけで、過激な抗議活動が展開された。竹島問題を日本の植民地支配と結びつけて主張することで国民感情に訴えている。事実関係を抜きにした教育手法だが、その「成果」は十分に出ているようだ。

 解決への糸口はないのだろうか。この連載で触れてきたように具体的な手段として、

 1)国際司法裁判所への提訴
 2)日韓の外交交渉
 3)国連安全保障理事会の調停
 4)第3国(たとえばアメリカ)の調停
 5)自衛権発動による実力行使

があるが、いずれも成算は立っていない。これらはすべて行き詰まったと考えてよい。

 といって、竹島問題で日本は一切を投げ出し、韓国に譲歩してはならない。竹島は韓国の武力によって実効支配されたままだ。韓国の領有を認めることは、武力侵略の既成事実を日本が肯定したことになる。あわてて拙速な決着をつけるべき課題ではないのだ。

 解決の道筋を探っていくと、最大の課題はむしろ日本国民と政治家の無関心にある。韓国に比べ領土問題に関心が低い。竹島問題が政治家の「票」につながる構造を作り出すのも当面のきっかけになろう。政治家が発言すればメディアが追いかけ、竹島問題が日本国民の目にとまって考えてくれる機会が増えるはずだ。

 重大な懸案を抱えている国同士、それなりの距離感を持つことも選択肢の一つだ。笑顔で歓談のテーブルの下で足を踏み合うような現状はまずい。問題解決を経ずにここまできた、口先だけの「日韓友好」には限界がある。まずは竹島問題に関する合同委員会を組織して「竹島密約」なるものを洗い出し、それを両国民の目の前で否定することから再スタートすべきではないか。もちろん、委員会メンバーから外務官僚を排除することは当然の前提だ。

 韓国はソウル五輪からワールドカップ開催を経てテイクオフに成功し、市民社会が成熟しかかっている。この間に、従来のようなメンツや感情だけではなく、事態を客観的に評価する力を獲得してきたはずだ。日本から呼びかける、今がチャンスではないか。 ◇ ◇ ◇




  • 最終更新:2010-06-13 14:33:37

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