下條正男『竹島は日韓どちらのものか)-1(読書録)

読書録538(2005.03.18)下条正男
下條正男『竹島は日韓どちらのものか』
  (文春新書、2004年)

島根県が16日に「竹島の日」条例案を可決したのに対し、
韓国が激しい反発を示しています。読書録537に引き続き
竹島に関する本をとりあげます。

・下條正男(しもじょう・まさお)
 1950年、長野県生まれ。国学院大学大学院博士課程
修了。83年、韓国に渡り、三星綜合研修院主任講師、
市立仁川大学校客員教授を経て、98年帰国。99年、
拓植大学国際開発研究所教授、2000年、同大学国際
開発学部アジア太平洋学科教授に就任、現在に至る。
専攻は日本史。

▼本書の内容

《韓国は警備隊を派遣し灯台を建設するなど、一九五四年から竹島を実効支配し、領
有権をめぐっての日本との協議を拒否し続けているが、歴史学者である著者が史料を
渉猟、歴史的根源にまで遡って調べた結果は日本領。問題がここまでこじれたのも、
事実よりも感情や理念が先走る韓国側の傾向、論争を避ける日本側の事なかれ主義に
原因があると指摘する著者は、日韓の冷静な対話を呼びかけている。争点を整理した、
竹島問題とは何かを知る絶好のガイド。》


▼感想

竹島に関しては、前回読書録537で国際法学者・芹田健太郎の本をとりあげました。そ
こでの結論は、国際法的に見て、韓国の主張には無理があり、日本により説得力があ
る、というものでした。今回とりあげる『竹島は日韓どちらのものか』は、竹島問題
を歴史学的に検証したものです。

本書の結論は、簡単に言えば、韓国の主張は歴史学的に見て正しくないということで
す。

第一に、韓国が根拠としている史料には誤りが多いと指摘します。例えば、韓国が竹
島を韓国領にしたとして英雄視している安龍福の証言は偽証であったし(第二章)、
同じく韓国が竹島領有の歴史的根拠として引き合いに出すことの多い『東国文献備考
』「輿地考」は改竄されたものだというのです(第三章)。

第二に、韓国側が根拠とする史料は現在の竹島に言及しているわけではない、という
ことが指摘されます。昔の「竹島」は現在の鬱陵島や竹嶼を指したりしており、韓国
側の史料では現在の竹島を領有していたことを示せていないというのです。「竹島」
を調査したとされる1882年の李奎遠(イ・キュウォン)鬱陵島調査団も、実際には現
在の竹島には行ってはいないとされます(112頁)。

本書を読めば、少なくとも、韓国が現在の竹島を領有していたという事実は韓国が根
拠とする史料からは明らかでない、ということが分かります。僕は以前から韓国紙『
朝鮮日報』『中央日報』『東亜日報』の日本語版に記される竹島韓国領説を注意して
読んできましたが、やはり韓国説は説得力がないと思います。最大の問題は現在の竹
島を韓国が実効的に支配していた証拠がないことです。上記のように、韓国が根拠と
する史料が現在の竹島を指しているとは言えず、むしろ鬱陵島や竹嶼を指している可
能性の方が極めて高いのです。

      *      *


それにしても歴史学的に見てもこれだけ有力な批判があるのに、どうして韓国は竹島
問題を「解決済み」とし、それを疑う意見を「妄言」と決めつけて無視するのでしょ
うか。

下條正男は考えられる理由の一つとして、朝鮮は史料よりも歴史認識を優先してきた
点を挙げています。朝鮮王朝の政治史は「党争」の歴史でした(50頁)。ある一派が
政権を掌握すれば他派は死罪をはじめとした徹底した弾圧を受け、それに伴い歴史解
釈も180度変わったりしていたのです。さらには編纂の際、ある歴史的人物や出来事に
対し、史官が自己の見識で毀誉褒貶を行う「論賛」も行われてました(95頁)。こう
した史料よりも歴史認識を優先する歴史観が韓国にも引き継がれていると下條正男は
見ます(なお、韓国人の歴史観に関しては読書録217も参照)。

僕も下条正男のこの分析は正しいかなという気がしています。例えば、韓国は、竹島
は韓国固有の領土だと主張する一方、日本の竹島に対する侵略的性向を非難すること
があります。最近だと、『中央日報』のコラム「噴水台」の「独島と過去史」と題し
た2005年2月28日の記事(http://tinyurl.com/5gcvr)が、日本の竹島に対する侵略的
性向を示す事実として、昔から日本は竹島で好き勝手やったり、「竹島は日本の領土」
と言っていたという例を出しています(ただし、本書が指摘するように、ここでの安
龍福や李奎遠の記述は史実としては疑わしい)。しかしこれらが事実であれば、韓国
のもう一つの主張である「竹島は韓国固有の領土だ」という議論と矛盾します。なぜ
なら、日本人が好き勝手やったり「竹島は日本の領土だ」と言ってきたということは、
竹島を実効支配していたのは韓国ではなく日本だったことを示していると解せるから
です。少なくともこの一件では、韓国は史実を歴史認識に合わせて無理に解釈してい
るように思えます。

      *      *


それでは韓国では竹島に関してどのような教育をしているのでしょうか。下條正男は
その様子を次のように描写します。

《一般に日本では竹島問題に対する関心が低く、韓国側のみが一方的に関心を示すと
いう不均衡な状況が続いている。日本とは違い、韓国では学校教育の場でこの竹島問
題を教えており、竹島(独島)は韓国の青少年にとっても身近な存在となっている。
/たとえば中学用の歴史教科書(『国史』下)を見ると、単元のはじめにある「学習
問題」では、「独島と間島に対する日帝の侵略過程は、どうであったか?」といった
設問がなされ、単元最後の「学習整理」では、日本は日露戦争中、独島を不法に奪っ
た、とされている。韓国の歴史教育では、竹島問題は日本の侵略的性向を教える格好
の教材なのである。》(8-9頁)

日本人としては、韓国の主張に加え、このような歴史教育の現状も認識しておく必要
があるでしょう。韓国にとって竹島は日本の侵略的性向と戦後の韓国民族自立の象徴
となってしまっているのです(余談ですが、韓国では竹島をバックに「国内どこへで
も」というキャッチコピーをつけた電話会社のCMが流れるほどに、日常的に竹島が意
識されています。by ufu)。

      *      *


さて、奇しくも今回の騒動の発端となってしまった島根県議会の「竹島の日」条例案
可決ですが、僕は島根県のこの行動を支持します。なぜならば日本では竹島問題に対
する議論や関心があまりに低いからです(これは下條正男が批判する日本の「論争を
避ける事なかれ主義」も一因だろう)。領土問題は国全体の問題であることを考える
と、国民に対する喚起は本来は国がやるべきだったとさえ思います。領有権問題解決
のためには国民の意識・理解が欠かせません。「法は権利の上に眠る者を保護しない」
という法格言を想起すべきでしょう。

島根県議会の動きに対し、朝日新聞が3月11日付の社説で、《竹島の領有権問題は40
年前の日韓国交正常化の際にも棚上げでしのがざるを得なかった。それだけ根深い対
立がある。それを今、ことさらあおり立てて、どれだけの得になるのか。》と書いて
います。僕はこの意見には反対です。そもそも条例案が「あおり」だとは思いません
し、竹島の認知度を高めるというのは大きな「得」だと考えます。朝日には、このま
ま日本人が竹島への関心を低下させてしまってよいのか、よくないとすれば朝日とし
てはどのような代替案を示せるのか、見解を聞きたいところです。さらに言えば、朝
日の論理でいくと、朝日が積極的な「慰安婦問題」なども日韓関係を複雑にするから
控えるべきだということになる気もします。

また、日韓友好ムードに水をさすという懸念も耳にします。その懸念も分からなくは
ないですが、いつかは詰めなければならない問題ですし、日韓友好ムードの今だから
こそという見方もできます。相手の耳に痛いことも、いつかは言わなければなりませ
ん。僕としてはこれを機会に日本人の竹島に対する関心が高まり、なおかつ日韓間の
歴史対話も進めばと「未来志向」に考えてます(楽観的過ぎ?!)。

日本は、今の一部の韓国人のように熱くなり過ぎる必要はありません。また、問題を
すぐに解決すべきと拙速に走る必要もありません(青木保「遅い情報」読書録223参
照)。冷静に毅然とした態度でいればいいと思います。


▼終わりに

冒頭でも述べましたが、竹島に関する国際法的分析に関しては読書録537でとりあげま
したのでそちらをご参照ください。日本政府の竹島に対する公式見解も載せてありま
すし、日本がこの問題を国際司法裁判所で解決しようと提案したのに韓国が断ったと
いう経緯も記しています。本書と併せて読めば、理解がより深まると思います。

2005.03.18.


●関連読書録

【竹島関係】 http://tinyurl.com/3luzj


●追記1(2005.03.28)
 竹島問題に関して、日記で次のようなことを書いたので転載します。

  朝日新聞論説主幹の若宮啓文(わかみやよしのぶ) が、昨日の朝日新聞のコラム「風
  考計」で、日本は韓国に竹島を譲れと書いている(「竹島と独島 これを「友情島」
  に…の夢想」http://tinyurl.com/3p5pt)。

   《例えば竹島を日韓の共同管理にできればいいが、韓国が応じるとは思えない。なら
   ば、いっそのこと島を譲ってしまったら、と夢想する。
    見返りに韓国はこの英断をたたえ、島を「友情島」と呼ぶ。周辺の漁業権を将来に
   わたって日本に認めることを約束、ほかの領土問題では日本を全面的に支持する。F
   TA交渉も一気にまとめ、日韓連携に弾みをつける――。
    島を放棄と言えば「国賊」批判が目に浮かぶが、いくら威勢がよくても戦争できる
   わけでなく、島を取り返せる見込みはない。もともと漁業のほかに価値が乏しい無人
   島だ。元住民が返還を悲願とする北方四島や、戦略価値が高い尖閣諸島とは違う。
    やがて「併合100年」の節目がくる。ここで仰天の度量を見せ、損して得をとる
   策はないものか。いやいや、そんな芸当のできる国でなし、だからこれは夢想に過ぎ
   ないのである。》

  「夢想」と断ってはいるが、あまりにも夢想が過ぎて若宮啓文の感覚が疑われる。
  「見返りに韓国はこの英断をたたえ、島を「友情島」と呼ぶ」という箇所などは何の
  根拠もない。韓国は自国の領有権を主張しているのだから「当たり前」と思いこそす
  れ、「英断をたたえ」るなどということはないだろう。それにそもそもなぜ日本が譲
  らないといけないのかが明らかでない。

  若宮啓文(及び朝日新聞)の言う「日韓友情」がいかに底が浅く、単に韓国に譲歩す
  ることと同意だということかがよくわかったコラムだった。(2005.03.28)


●追記2(2005.03.28)
 なお、竹島問題の整理としては3月28日に『読売新聞』の解説ページで
掲載された「竹島問題」がコンパクトで分かりやすい。



  • 最終更新:2010-08-29 15:36:33

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