竹島の危機は日本の危機

竹島の危機は日本の危機

この機会を逃すな
2006年5月1日
 
プロログ
 今年4月20日前後、日本海に浮かぶ孤島『竹島』周辺は一発触発の危機的状態にあった。今年6月にドイツで行われる予定の『海底地形名称小委員会』に、韓国が竹島周辺の海底地形を韓国式表記とする提案を持ち込む計画であることを海上保安庁が確認し、これに対抗するため日本側は、竹島周辺に海洋調査船を送り込むことを公告したからだ。
 この『事件』は幸い、両国の妥協で当面の物理的衝突は回避されたが、この問題で韓国政府は4月27日から、世界各国の駐韓大使らに対し個別に事情説明をするという『暴挙』に出た。韓国外交通商省は、韓国に駐在するヨーロッパやアジア各国の大使らを個別に呼んで、韓国が竹島を固有の領土であると主張することの根拠や、日本との歴史的経緯などについて韓国政府の立場を説明したのだ。同時に、世界各地でも、韓国大使らが現地の政府に韓国への支持を働きかけたという。この行動が、その数日前の25日朝、対日強硬姿勢を鮮明にしてみせた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の特別テレビ談話の中で、
「世界の世論に対して日本政府の不当な仕打ちを告発していく」
 と表明したことを踏まえた措置ならば、この種の主張は国際司法裁判所(ICJ)でするべきことだろう。
 1954年9月以来これまでに2度、韓国は、日本側が提案した国際司法裁判所への付託を拒否し、紛争の存在自体を認めないでいながら、突然、このような行動に走るのは姑息である。しかし日本は今、本当に『大人気ない』とカッコつけているだけでいいのだろうか。今回の韓国の行動は、これまでに韓国が、
「領土問題は存在しない」
 としてきた竹島が、実は領土問題の紛争地であるという事実を自らの口で世界に伝えたのだから、竹島問題に関する日本の立場を国際社会にアピールする絶好の機会ではないのか。ところがわが国外務省幹部は、
「心ある国は、韓国への対応に辟易している」
 と不快感を露わしながらも静観する構えらしい。しかしながら、世界には『心ある国』ばかりではない。韓国は中国ほどの影響力はないとは思えるが、それが日本の『思い上がり』や『誤算』でなければいい。しかし現実は、感情的に日本贔屓の国ばかりではないことは、昨年の国連常任理事国改革の経緯をみても分かることだ。
 日本はいつも、自国の主張を他国に理解してもらう努力を怠っている。対応すべきことはやはりきちんと対応し、誤った認識を持つ国に対してはその都度、正しく修正しておく行動を日常的にすることが大切ではないか。それこそが本当の『話し合い』というものだろう。
 
問題の発端と経過
 この問題の発端は昨2005年11月、韓国海洋調査院のホームページに、今年6月21~23日、国際水路機関(IHO)などがドイツで共催する予定の『海底地形名称小委員会』に韓国が、竹島周辺の海底地形を韓国政治家などの名を付けた韓国式表記とする提案をする計画を持っていることを海上保安庁が確認した。もしこれが採用されれば、竹島とその周辺海域は韓国の領土・領海であることの既成事実化が進むことになる。
 そこで今年になって4月14日、わが国はこれに対抗し、対案を作るためのデータ収集を目的として6月30日まで竹島周辺海域での海洋調査を行う計画を、航海安全の情報を提供する『水路通報』として公表し、韓国を含む関係国に郵便を送った。韓国は過去4年間、竹島周辺海域で毎年調査を続け、日本がすでにIHOに登録済みの『対馬海盆』を『鬱陵(ウルルン)海盆』とするなど18か所に韓国名を付け、国際会議での認知を目指している。わたしの記憶が確かならば、数年前、韓国は『日本海(Japan Sea)』表記が不当であるとし、韓国の呼び名である『東海(East Sea)』とすることを主張して各国に働きかけ、一部の国の地図に、そのように表記されたことがあった。つまり日本海は朝鮮半島の東にあるというわけだ。
 これを含め、日本側はこれら韓国の動きに抗議するだけで、これまで実質何もしてこなかったことも驚きだが、韓国は直ちに日本の調査に反発、即時中止を要求し、17日には関係閣僚会議を開き、日本が調査を強行した場合は停船や臨検、拿捕など断固たる措置を取る方針を確認した。盧武鉉大統領は、
「物理的な挑発に対しては強力かつ断固として対応する。日本政府が誤りを正すまでは国家的力量と外交的資源を全て動員し、どんな費用と犠牲を払っても決して放棄や妥協はしない」
 と述べた。これに対し日本側は、韓国側が海底地形名称の提起を行わないなら再考する用意はあると伝えたが、翌18日、盧武鉉大統領はこれを、
「侵略の歴史を正当化する行為だ」
 と非難した。日本側はこれに構わず19日、海上保安庁の測量船『海洋』(621トン)と『明洋』(605トン)が島根県境港から出港し沖合で待機したため、竹島周辺の緊張は一気に高まった。
 自国の排他的経済水域(EEZ)内で韓国側に通告することなく海洋調査を行うことは、国際法上何ら瑕疵はない。韓国も批准している国連海洋法条約ではEEZは『公海』であり、その中での海底開発などの主権を認めるものの航行や科学的調査を行う自由は全ての国に保障されている。しかも調査船のような政府の船舶は『公船』として臨検したり拿捕できないと定めている。しかし韓国側は海洋警察庁が非常警戒令を発動して20隻を超える警備艇などを竹島周辺に配備し、翌20日には日本の海洋調査を想定した大規模訓練を計画していると脅しを掛けるなど、あわやの緊迫感が続いた。日本の調査船は巡視艇などを携行していない。
 21日、谷内正太郎外務次官らが訪韓して柳明桓(ユ・ミョンファン)外交通商省第一次官らと会談したが、
「6月の国際会議で韓国名称を提案すると発表したことはない」
 などと言い逃れながらも、
「韓国式名称の登録推進は韓国の正当な権利」
 などと主張して韓国側は頑(かたく)なな姿勢で抵抗した。途中、報告を受けた安倍晋三官房長官は、
「これは絶対に譲れない一線だ。受け入れられなければ席を立って帰ってきていい」
 とまでいい切って、一時は決裂寸前の状態になったが翌22日夜、一転、韓国は6月の国際会議に韓国名称を提案せず日本は海洋調査を当面中止することで、とりあえずは最悪の事態は回避された。
 このとき同時に、5月中にも局長級のEEZ画定交渉を再開することでも合意した。とはいえ韓国は、
「必要な準備を経て適切な時期に自らの判断で推進する」
 といっていて、地名提案をしないことを保証したわけではなく、したがって『円満』に解決したわけでもない。盧武鉉大統領は25日朝の特別テレビ談話の中でも、
「日本が我々の海域の海底地名を不当に日本式で先行獲得したのを、韓国が正そうとするのは当然の権利」
 と強調、日本が主張する竹島の領有権についても、
「1904年の日露戦争を機に朝鮮半島への侵略過程で真っ先に併呑された植民地の領土権を主張するもの」
 と強く非難し、靖国問題や歴史教科書問題とともに、『日韓関係よりは上位の概念』と位置づける竹島は単純な領有権の問題ではなく、
「日本との誤った歴史の清算と韓国の完全な主権確立を象徴する最も重視すべき課題で、これ以上静かな対応で管理できない問題だ。今後は公開的に堂々と対処していく」
 と、竹島問題への対応を全面的に再検討し日本が竹島の領有権主張を放棄するよう要求した。しかし日本側は、5月のEEZ境界画定交渉では竹島の領有問題を切り離したい意向だという。
 この間、小泉首相は他人事(ひとごと)のように「冷静に」とだけいい続けたが、今回ここまで拗(こじ)れたのは日本のアジア近隣外交が長期間途絶していることが原因で、その根本には『靖国問題』がある。日韓関係が大きく損なわれれば、地域の安定と繁栄の基盤が失われ、北朝鮮に対してもスキを見せることになる。事実22日、平壌での南北閣僚級会議で北朝鮮は、『南北』共同でこの問題に対処しようと韓国に持ちかけ、日本側を揺さぶろうとしたと伝えられる。
 
日本は海洋国家にほど遠い
 日本は四囲を海に恵まれ、その経済水域は世界6位になることは先に話した(2004年2月1日付け『地の章』『海という宝庫』など)。しかし、政府には海洋問題に専任する組織・機構はなく、したがってその権益を最大に活用しようという総括的な国家戦略も、それを世界に主張するスポークスマンもいない。船舶の安全な航行に関しては国土交通省が、海上保安に関しては海上保安庁が、海上警備に関しては海上自衛隊が、海洋資源の調査・開発に関しては経済産業省が、漁業については農林水産省が、海洋構築物については建設省が、自分に関係ある案件が生じたときだけそれぞれが各個バラバラに対応する。複数の省庁にまたがる議案が出る海洋政策サミットや世界会議などにはどの省庁も人を派遣しないことも珍しくないらしい。
 同じように縦割り行政や官民連系などで開発体制に纏まりを欠くとはいえ自民党内に『宇宙開発特別委員会』を持ち、宇宙大臣や宇宙会議などの総司令部を内閣につくって議員立法で『宇宙基本法』を制定しようという構想を打ち上げる宇宙開発に比べても、危機感の違いが大き過ぎる。やっと『防衛』面における重要性の認識が定着し始めた宇宙と同じように、海洋でのそれにも早く目を開かなければいけない。
 わが国のエネルギーや資源確保のために重要なシーレーンや遠洋漁業など、海洋問題に係る国際協力や諸調整が必須になって久しいというのに、日本は、国連海洋法条約を1996年に批准するまで持っていた外務省の海洋法本部を廃止してしまった。日本は、海洋国ならどの国でも持っている海洋基本法やその周辺を固める法令がない、唯一珍しい国である。韓国には海洋水産省があり海洋水産発展基本法がある。中国にも国家海洋局があって海域使用管理法を持つ。日本も、海洋担当大臣の任命など、その気になれば直ぐにでもできることだ――少子化対策大臣が誕生したくらいなのだから。海洋関係閣僚会議の設置や海洋基本法の制定は、わたしがかつて『四全総』の海洋開発委員会委員に任命された時代からこれまで、40年以上も連綿と提案し続けてきたことだ。要するに、日本政府には、海洋には全く関心がない、そのツケが今、竹島で噴出したものだという認識がない。中国や台湾に沖ノ鳥島を『岩』だといわせるのも(2004年 4月23日日記『沖ノ鳥島が『岩』だと!?』)、東シナ海でのガス田開発や尖閣諸島、そして今回の竹島での紛争も、これらに毅然とした態度を取らないために相手国から侮られるのも、全部の原因はここにある。
 相手国の不都合に対して単に抗議だけし、『友好的に話し合いで解決を』と唱えるばかりで実効支配する努力をしない日本の姿勢は『Paper Protest』と呼ばれ、国際法上、机の上だけの抗議と見なされて有効とは判断されない。今この機を逃せば、竹島は恐らく、日本には返ってこないだろう。
 日本の現状は『体制強化』などといえるものではない。もともと何もないからだ。世界各国が海洋に高い関心を示し、EEZや大陸棚の囲い込みのために次々と諸政策を実行に移している今、遅きに失しているとはいえ、今からでも切迫感を持って真剣に取り組まないと、本当に大変なことになる。
 
EEZは公海である
 この辺りの事情は中国に関しても同じで、中国は東シナ海の『平湖』ガス田拡張工事のためにEEZの日中中間線の周辺海域の船舶航行禁止を一方的に通知したりしている。このことを中国側は3月1日にホームページに掲載しながら、日本など周辺国に事前説明がなかった。18日になって「誤りがあった」と修正したが陳謝はなかったという。国連海洋法条約が定めるのは施設から半径500m以内の『安全水域』だが、今回の通告はこれを遙かに超えて日本のEEZ内に及ぶなど国際条約に違反する疑いがある。とはいえ、日本側の確認が遅れたのはいつものことで、外務省がホームページに気づいたのは3月13日。その日午後8時になって初めて、インド洋を含む周辺海域に航行警報を発令して船舶に注意を呼びかけ、同時にシンガポールなど周辺国にも通知した。日本側の緊張感のなさ、いつもいわれる危機管理の欠如には呆れ返る思いだ。
 EEZは『公海』である。EEZを持つ沿岸国に対し、国連海洋法条約が認めている主権は、天然資源の探査と開発、海洋科学調査、人工島の設置など経済活動に係る事項だけで、今回のように日本政府の『公船』である海洋調査船の調査を妨げたり拿捕したりする権利を認めてはいない。今回の調査目的は航行の安全を確保するための『水路調査』であり、韓国が抗議する根拠はない。
 韓国は日本の海洋調査を実力で阻止するといいながら、一方では4月29日になって、韓国海洋調査院は7月3~17日にも、日本のEEZを含む竹島周辺で、潮流、流速、塩分などの海流観測を行う予定だという。
 韓国と中国、これら2国との軋轢の中心はいずれもEEZの線引きに関する係争、つまり、わが国にとっては『領土』と『権益』に係る重大問題である。日本の領土が確定するサンフランシスコ平和条約が発効する1952年4月の直前、その1月に、当時の大統領が公海上の水域に一方的に引いた『李承晩ライン』の内側に取り込む強硬手段に出た竹島は今、事実上韓国に実効支配され(2004年2月1日付け『地の章』『海という宝庫』)、1999年に発効した日韓漁業協定での『共同管理』は有名無実で、日本漁船の拿捕は今も続いていて事実上この海域での日本の漁業は閉め出されている。この海域で捕れたベニズワイガニ、アワビ、ウニなどの高級食材は韓国から『輸出』されて日本人が食している(2005年4月2日付け『地の章』『竹島問題――腹を括れ日本人』)。
 
エピログ
 韓国は、日本が侵略によって竹島を占領したというが、事実は韓国が日本領土を侵略したのであって、『歴史問題』とは一切関わりのないものだ(2005年2月25日付け日記『竹島の日』日本政府は何してる)。ナショナリズムの強い韓国国民は一人残らず竹島は韓国領土だと信じ込み、靖国問題と歴史教科書を3点セットとして抗日姿勢を崩さないというのに、これらの問題に対して日本人は、あまりにも認識が低すぎはしないだろうか。韓国人のように熱くなれとはいわないが、『冷静』と『無関心・無反応・無知』とは基本的に違う。教育基本法の改訂はともかく、『国を愛する心』が『罪悪』であると教え込まれた戦後の学校教育が今の結果を生んでいることは間違いない。日本政府、特に外務省も『韓国に遠慮』して、ここ30年以上も竹島周辺海域での海洋調査をしていなかった。そのお返しが、この有様だ。
 こんな騒ぎの中でも日本のオバサマたちはヨンさまに会いに韓国旅行に出掛ける。韓国の国民はすべて、激しい論調で繰り返されるテレビ番組などで竹島問題をよく知っており、わたしの仕事仲間の韓国人は、
「日本人がこんな騒ぎの中でもわが国に観光に来ることが信じられない」
 と驚いている。
 
 
Top Pageに戻る




  • 最終更新:2009-03-08 14:17:21

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード